No.70 [2025/12/15発行]
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■ ウッディエンス メールマガジン 2025/12/15 No. 070
☆★ 木材の科学は日進月歩! 日本木材学会から最新の情報をお届けします
‥・* 発行 日本木材学会広報委員会
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日本木材学会広報委員会委員長 石川 敦子
■ 本号の目次 ■
本号では、北海道・東北支部 令和7年度(第57回)研究発表会開催報告、2025年度日本木材学会中部支部大会(静岡)、第52回木材の化学加工研究会シンポジウム、および2025年度「樹木年輪」研究会の開催報告をご紹介します。ぜひご覧ください。
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◆北海道・東北支部 令和7年度(第57回)研究発表会開催報告
└常任理事 戸田守一、平良尚梧(道総研林産試)、澤田圭(北大院農)
北海道・東北支部では、令和7年11月11日(火)に札幌コンベンションセンター(札幌市)およびZoomミーティングにおいて、令和7年度(第57回)研究発表会を主催しました。今年度は、北方森林学会との合同開催ということで、参加者は両企画に参加可能でした。「森林地域で大型野生動物と安全に付き合うために」と題された北方森林学会のシンポジウムにも多くの支部会員が参加し、最近ニュースで度々耳目を集める大型野生動物の出没に対する安全対策や取り組み事例について、最新の情報を共有することができました。
本研究発表会には来賓として、日本木材学会から恒次祐子会長と高田克彦副会長にご臨席賜りました。
木材と林産物に関する学術的成果を共有するため、学生会員7名、一般会員7名、計14件の口頭発表を実施しました(プログラム参照)。
**************研究発表会のプログラム**************
<口頭発表>(発表者のみ記載)
1. 針葉樹の細胞壁形成におけるヘミセルロースの役割:佐藤翔一( (北大院農))
2. 樹木の樹皮および冬芽の細胞壁画分で検出された氷核活性について:中野智翔(北大院農)
3. チャの苗木の凍結様式について:中澤佑哉(北大院農)
4. 樹木種子から抽出したタンパク質による乾燥害保護活性について:木下剛志(北大院農)
5. 抗肥満作用に寄与する辛味香辛料成分の標的タンパク質探索:服部浩之(東北大院農)
6. Termitomyces属菌の栽培容器内における培養条件の検討:袴田理央(北大院農)
7. シイタケ栽培におけるカラマツおが粉散水堆積処理の効果:中崎皓太(北大院農)
8. おが粉への散水処理がマイタケの子実体発生に及ぼす影響:寺田透弥(道総研林産試)
9. 組織培養技術を利用した絶滅危惧種オガサワラグワの野生復帰への取組:遠藤圭太(北海道育種場)
10. 木橋「鶴の舞橋」の耐久性調査:谷田琴子(北大農)
11. 架設から22年経過した大断面集成材木橋の曲げ剛性と健全度:及川大輔(日大工)
12. トドマツ製材品の曲がり・ねじれと原木特徴量(アテ割合等)の関係:村上了(道総研林産試)
13. スギ圧密加工における圧密条件が断面内材質分布に及ぼす影響:古井戸宥樹(道総研林産試)
14. 異分散ガウス過程回帰を用いたパーティクルボード性能のばらつき予測に及ぼす製造条件の影響:須賀雅人(道総研林産試)
***************************************
本研究発表会では来場者数は41名、Zoomでのアクセス件数は23件で、発表者と参加者との間で活発な意見交換がなされました。
すべての課題発表後に優秀な発表についての投票が行われ、北海道大学大学院農学院の佐藤翔一氏(発表番号1)および北海道大学農学部の谷田琴子氏(発表番号10)に第22回北の木材科学賞が授与されました。
また、本研究発表会の閉会に先立ち、来賓の恒次祐子会長から、発表者の努力を労う心温まる講評をいただき、次年度に向けて良い励みになりました。その後の懇親会においても議論は続き、参加者同士親睦を深めていました。
◆2025年度日本木材学会中部支部大会(静岡)の開催報告
└(静岡大学)河合真吾,平井浩文,渡邊拡,小島陽一,森智夫,米田夕子,小堀光, 小川敬多,小野晶子
2025年10月16~17日,静岡大学の静岡キャンパス農学総合棟にて,2025年度日本木材学会中部支部大会が開催されました。今回で35回目となる本大会は,主に中部地域に所在する大学・研究所・企業等の木材研究者・技術者・学生らが会し,研究報告・議論・交流が行われます。今回は90名の参加があり,そのうち学生は32名でした。初日は13時にオープニングセレモニーが始まり,その後に約1時間30分の口頭発表が行われ,約1時間のポスター発表が間に組み込まれた後,約1時間30分の口頭発表があり,最後にクロージングセレモニーが行われました。口頭発表は22件(2会場で11件ずつ発表),ポスターは21件,合計で43件の研究発表がありました。発表内容は,化学系・生物系・物理系・力学系・土木工学系・LCA関連・意識調査などの多岐に渡りました。これほど多岐にわたる研究内容を,コンパクトな会場で繰り広げられることが,支部大会ならではの良さとなりました。
クロージングセレモニーでは今年度の地域功労賞の授賞式が行われました。今年度は岐阜県生活技術研究所・今西祐志氏と富山県農林水産総合技術センター木材研究所・柴和宏氏の2名が受賞しました。今西氏は「温湿度環境下での木材・木質材料の変形挙動に関する研究と家具・建具製造業への技術支援」,柴氏は「地域材の土木利用における研究開発と普及」の題目での受賞となりました。
続いて,18時から農学総合棟内の第3食堂にて懇親会が行われました。42名の参加があり,そのうち学生は16名でした。立食ビュッフェ形式で開催され,参加者は研究ディスカッションの続きや,木材・森林に関する技術や時事などの情報交換,研究や教育等の業務に関する情報交換,あるいは談笑などで盛り上がりました。懇親会の途中で優秀発表賞の授賞式が行われました。口頭発表ではAとBの会場からそれぞれ1件ずつ,ポスター発表では全体から2件が選ばれました。受賞者と講演題目は以下の通りです。
・佐々木祐実氏(名大院生命農)「スギ大径材の人工乾燥前後の残留応力特性」
・小玉啓氏(信大院農)「DICを用いた弾性特性評価に関する実験的検討」
・星野瑞葵氏(静大院総科技)「ハイパースペクトルイメージングを用いた乾燥過程における木材の含水率と収縮率の同時計測技術の確立」
・松川悌己氏(名大院生命農)「木材のDART(Direct Analysis in Real Time)-MS分析/ケモメトリックス解析と古材の樹種判別への適用」
二日目には見学会が開催され,株式会社ノダの富士川工場を訪れました。合板製造を主とした工場です。工場に到着後,まずは会社および工場の説明を受けました。そこでは,創業120年の歴史を有すること,材木屋から始まった会社がどのタイミングで合板製造に移ったのか,また,国産材や地域産材の利用を推し進めるようになった経緯などの説明を聞きました。その後,工場内を見学しました。皮むきされた丸太を煮沸する装置の見学から始まり,ロータリーレースによるかつら剥き,単板のつなぎ処理,乾燥,接着,表面加工などのそれぞれの工程について,実際の装置が動く様子を見ながら説明を受けました。その過程で,品質管理を徹底するための工夫などを学びました。最後に見学を踏まえての質疑応答がありました。参加者からは,例えば製造装置で用いている設定値について,その値の採用に至った経緯などの質問がありました。
以上が今大会の概要です。中部地区で活躍する木質系の研究者,技術者,学生らにとって,有意義な研究交流の機会となりました。
文責:小川敬多

口頭発表会場の様子

見学会の終わりに記念撮影
◆第52回木材の化学加工研究会シンポジウム「産学官連携でみえる木材の化学加工の未来予想図」開催報告
└(森林総研)松永正弘
木材の化学加工研究会では去る2024年11月14日(木)、15日(金)の2日間に渡り、第52回木材の化学加工研究会シンポジウムを開催しました。1日目はつくば国際会議場(茨城県つくば市)での講演会、2日目は前田建設工業株式会社ICI総合センター(茨城県取手市)での見学会が行われました。シンポジウムの参加者数は、1日目の講演会が35名、2日目の見学会が22名でした。
1日目の講演会では、当研究会の代表幹事である京都府立大学の宮藤久士先生による開会の挨拶の後、6名の講師の方々から木材研究の最前線についてのご講演を賜りました(写真1)。東京農工大学の加用千裕先生からは「脱炭素社会に向けた木材の炭素フロー・ストックの可視化」というタイトルで、世界および日本における木材に関わる炭素のフローおよびストックを定量化する研究をご紹介いただきました。東京学芸大学の大谷忠先生からは「トライボ化学反応による木材表面の高機能化」というタイトルで、摩擦によって発生するエネルギーを利用した新たな表面処理の特徴とこれまでに得られた代表的な成果についてご紹介いただきました。森林総合研究所の山下香菜先生からは「スギの材質変動と細胞壁化学構造の解明にむけた取り組み」というタイトルで、主として構造用材料に求められる木材の性質に関して、個体内及び個体間の変動と、細胞壁の化学構造及び人工乾燥で生じる変化に関する研究をご紹介いただきました。森林総合研究所の久住亮介先生からは「三次元磁気拘束下のNMRとその応用展開」というタイトルで、反磁性微粒子の磁場応答を積極活用した磁場配向法についての研究をご紹介いただきました。港湾空港技術研究所の山田昌郎先生からは「久里浜湾沿岸での木材海洋暴露実験の概要」というタイトルで、木材・プラスチック複合材(混練型WPC)や低分子フェノール樹脂処理木材、熱処理木材、アセチル化処理木材などの化学改質木材について実施してきた海洋暴露実験の結果についてご紹介いただきました。前田建設工業株式会社の冨田健先生からは「『中大規模木質構造』における維持管理の取り組み」というタイトルで、前田建設工業(株)の木質構造に関連する取り組みや、それに関わる維持管理の取り組み等についてご紹介いただきました。
2日目の見学会では、ICI総合センター内にある人工気象実験施設や風環境実験施設、大型可視化土槽、音環境実験設備など、様々な大型実験設備を見学させていただきました。また、1934年に東京都港区白金台に建設され、2022年にICI総合センター敷地内に移設された旧渡辺甚吉邸(国登録有形文化財)内の見学(写真2)も併せて行われました。
今回のシンポジウムでは、コロナ禍以降開催を見合わせていた懇親会と見学会も5年ぶりに開催され、ようやく以前と同じスタイルのシンポジウムに戻すことができました。当研究会では今後も直接顔を合わせる現地開催にこだわりつつ、木質資源の有効利用に向けた新技術や今後の展望に関する最新の知見を得られるシンポジウムを企画していきます。

写真1 講演会の様子

写真2 旧渡辺甚吉邸
◆2025年度「樹木年輪」研究会開催報告
└(森林総合研究所森林バイオ研究センター)髙田直樹
日本木材学会組織と材質研究会は、2025年11月15~16日にinadani sees(伊那市産学官連携拠点施設)で開催された2025年度「樹木年輪」研究会(世話人 安江恒先生(信州大学))を共催しました。初日は「気候変動下における樹木肥大成長変化の予測(Forecasting the changes in tree radial growth under climate change)」と題したシンポジウムがあり、2日目には「樹木年輪」研究会の定例会が開催されました。シンポジウムでは、韓国・忠北大学のJun-Hui Park博士から高CO2環境により生じる樹木の木部組織構造の変化に関するご講演があり、続いて神戸大学のChristmas Uchiyama氏から連続的な幹加温がスギの形成層活動および木部構造に与える影響についてご講演がありました。また、岐阜大学の斎藤琢准教授から生態系レベルの炭素循環モデルを用いたスギの肥大成長予測に関してご紹介いただきました。2日目は、「樹木年輪」研究会の定例会として、口頭発表4件ポスター発表13件を実施しました(プログラム参照)。参加者は、オンサイト38名、オンライン6名(シンポジウム)で、お子さんを連れた研究者も参加され、和気あいあいとした雰囲気で研究会を開催することができました。また、2026年度の「樹木年輪」研究会は、Asian Dendrochronology Conference (Nagoya)で代替開催とし、2027年度は千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館で開催することが決定しました。組織と材質研究会では、今後も「樹木年輪」研究会と協力しながら、木材組織・材質の研究に関わる情報共有の場をつくっていきます。
**********研究発表会のプログラム**********
<口頭発表>(発表者のみ記載)
1. 北海道のウダイカンバ成木における衰退前の肥大成長に影響する気候要素-地域間比較-:大野泰之(道総研林試)
2. 奈良文化財研究所から開示された年輪年代関連データの評価:丸地三郎(古代史ネットワーク)
3. 池上曽根遺跡の大型堀立柱の年代測定:佐野雅規(歴博)
4. サンゴ年輪を用いた気候復元:中村修子(明治大)
<ポスター発表>
1. 静岡県内の樹木園に植栽された広葉樹における道管形態と曲げ性能との関係:岩下諒祐(山形大農)
2. 樹幹温度に着目した寒冷地におけるスギの年輪形成:亀岡恒介(山形大農)
3. 根元曲りスギにおける仮道管長の樹幹内変動:髙橋希(山形大農)
4. モンゴルの針葉樹天然林木の肥大成長:根津郁実(宇大農)
5. 日本古代史の探究と年輪年代法:清水徹朗(日本古代史ネットワーク)
6. 年輪酸素同位体比を用いた中世木製橋脚の年代推定:弓場翔太(名大工)
7. 東京農業大学世田谷キャンパスに生育するユーカリの肥大成長(その2)-成長量と気候情報との関係-:桃井尊央(東京農業大)
8. 北海道の南限地域に生育するアカエゾマツの気候応答解析:森脇育吹(道総研林試)
9. カラマツ年輪における炭素安定同位体比の気候応答解析:小林敬子(京大農)
10. ¹³CO₂パルスラベリングを用いたスギの幹と葉における貯蔵物質の季節変動の解明:大井川和心(信大総合理工)
11. 切り株は生きている!? -根系連結による生残の可能性-:楜澤里美(山形大農)
12. モンゴル北部に生育するシラカンバにおける炭素同位体比の年輪内変動および年次変動:倉田遼大(信大院)
13. スギ精英樹における形成層活動:工藤佳世(秋県大木高研)
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ウッディエンスでは学会賛助会員の企業を対象に5行広告を設けていますので、皆さまのご利用をお待ちしております。
詳細は下部にございますのでご覧下さい。
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広報委員会では各研究会や支部大会等の報告をウッディエンスに投稿していただくようお願いしております。幹事の方はお忘れなきようお願いします。原稿は随時受け付けておりますので、よろしくご協力ください。
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◎和文誌:木材学会誌 電子ジャーナル版
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日本木材学会広報委員会委員長 石川 敦子
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本号では、北海道・東北支部 令和7年度(第57回)研究発表会開催報告、2025年度日本木材学会中部支部大会(静岡)、第52回木材の化学加工研究会シンポジウム、および2025年度「樹木年輪」研究会の開催報告をご紹介します。ぜひご覧ください。
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◆北海道・東北支部 令和7年度(第57回)研究発表会開催報告
└常任理事 戸田守一、平良尚梧(道総研林産試)、澤田圭(北大院農)
北海道・東北支部では、令和7年11月11日(火)に札幌コンベンションセンター(札幌市)およびZoomミーティングにおいて、令和7年度(第57回)研究発表会を主催しました。今年度は、北方森林学会との合同開催ということで、参加者は両企画に参加可能でした。「森林地域で大型野生動物と安全に付き合うために」と題された北方森林学会のシンポジウムにも多くの支部会員が参加し、最近ニュースで度々耳目を集める大型野生動物の出没に対する安全対策や取り組み事例について、最新の情報を共有することができました。
本研究発表会には来賓として、日本木材学会から恒次祐子会長と高田克彦副会長にご臨席賜りました。
木材と林産物に関する学術的成果を共有するため、学生会員7名、一般会員7名、計14件の口頭発表を実施しました(プログラム参照)。
**************研究発表会のプログラム**************
<口頭発表>(発表者のみ記載)
1. 針葉樹の細胞壁形成におけるヘミセルロースの役割:佐藤翔一( (北大院農))
2. 樹木の樹皮および冬芽の細胞壁画分で検出された氷核活性について:中野智翔(北大院農)
3. チャの苗木の凍結様式について:中澤佑哉(北大院農)
4. 樹木種子から抽出したタンパク質による乾燥害保護活性について:木下剛志(北大院農)
5. 抗肥満作用に寄与する辛味香辛料成分の標的タンパク質探索:服部浩之(東北大院農)
6. Termitomyces属菌の栽培容器内における培養条件の検討:袴田理央(北大院農)
7. シイタケ栽培におけるカラマツおが粉散水堆積処理の効果:中崎皓太(北大院農)
8. おが粉への散水処理がマイタケの子実体発生に及ぼす影響:寺田透弥(道総研林産試)
9. 組織培養技術を利用した絶滅危惧種オガサワラグワの野生復帰への取組:遠藤圭太(北海道育種場)
10. 木橋「鶴の舞橋」の耐久性調査:谷田琴子(北大農)
11. 架設から22年経過した大断面集成材木橋の曲げ剛性と健全度:及川大輔(日大工)
12. トドマツ製材品の曲がり・ねじれと原木特徴量(アテ割合等)の関係:村上了(道総研林産試)
13. スギ圧密加工における圧密条件が断面内材質分布に及ぼす影響:古井戸宥樹(道総研林産試)
14. 異分散ガウス過程回帰を用いたパーティクルボード性能のばらつき予測に及ぼす製造条件の影響:須賀雅人(道総研林産試)
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本研究発表会では来場者数は41名、Zoomでのアクセス件数は23件で、発表者と参加者との間で活発な意見交換がなされました。
すべての課題発表後に優秀な発表についての投票が行われ、北海道大学大学院農学院の佐藤翔一氏(発表番号1)および北海道大学農学部の谷田琴子氏(発表番号10)に第22回北の木材科学賞が授与されました。
また、本研究発表会の閉会に先立ち、来賓の恒次祐子会長から、発表者の努力を労う心温まる講評をいただき、次年度に向けて良い励みになりました。その後の懇親会においても議論は続き、参加者同士親睦を深めていました。
◆2025年度日本木材学会中部支部大会(静岡)の開催報告
└(静岡大学)河合真吾,平井浩文,渡邊拡,小島陽一,森智夫,米田夕子,小堀光, 小川敬多,小野晶子
2025年10月16~17日,静岡大学の静岡キャンパス農学総合棟にて,2025年度日本木材学会中部支部大会が開催されました。今回で35回目となる本大会は,主に中部地域に所在する大学・研究所・企業等の木材研究者・技術者・学生らが会し,研究報告・議論・交流が行われます。今回は90名の参加があり,そのうち学生は32名でした。初日は13時にオープニングセレモニーが始まり,その後に約1時間30分の口頭発表が行われ,約1時間のポスター発表が間に組み込まれた後,約1時間30分の口頭発表があり,最後にクロージングセレモニーが行われました。口頭発表は22件(2会場で11件ずつ発表),ポスターは21件,合計で43件の研究発表がありました。発表内容は,化学系・生物系・物理系・力学系・土木工学系・LCA関連・意識調査などの多岐に渡りました。これほど多岐にわたる研究内容を,コンパクトな会場で繰り広げられることが,支部大会ならではの良さとなりました。
クロージングセレモニーでは今年度の地域功労賞の授賞式が行われました。今年度は岐阜県生活技術研究所・今西祐志氏と富山県農林水産総合技術センター木材研究所・柴和宏氏の2名が受賞しました。今西氏は「温湿度環境下での木材・木質材料の変形挙動に関する研究と家具・建具製造業への技術支援」,柴氏は「地域材の土木利用における研究開発と普及」の題目での受賞となりました。
続いて,18時から農学総合棟内の第3食堂にて懇親会が行われました。42名の参加があり,そのうち学生は16名でした。立食ビュッフェ形式で開催され,参加者は研究ディスカッションの続きや,木材・森林に関する技術や時事などの情報交換,研究や教育等の業務に関する情報交換,あるいは談笑などで盛り上がりました。懇親会の途中で優秀発表賞の授賞式が行われました。口頭発表ではAとBの会場からそれぞれ1件ずつ,ポスター発表では全体から2件が選ばれました。受賞者と講演題目は以下の通りです。
・佐々木祐実氏(名大院生命農)「スギ大径材の人工乾燥前後の残留応力特性」
・小玉啓氏(信大院農)「DICを用いた弾性特性評価に関する実験的検討」
・星野瑞葵氏(静大院総科技)「ハイパースペクトルイメージングを用いた乾燥過程における木材の含水率と収縮率の同時計測技術の確立」
・松川悌己氏(名大院生命農)「木材のDART(Direct Analysis in Real Time)-MS分析/ケモメトリックス解析と古材の樹種判別への適用」
二日目には見学会が開催され,株式会社ノダの富士川工場を訪れました。合板製造を主とした工場です。工場に到着後,まずは会社および工場の説明を受けました。そこでは,創業120年の歴史を有すること,材木屋から始まった会社がどのタイミングで合板製造に移ったのか,また,国産材や地域産材の利用を推し進めるようになった経緯などの説明を聞きました。その後,工場内を見学しました。皮むきされた丸太を煮沸する装置の見学から始まり,ロータリーレースによるかつら剥き,単板のつなぎ処理,乾燥,接着,表面加工などのそれぞれの工程について,実際の装置が動く様子を見ながら説明を受けました。その過程で,品質管理を徹底するための工夫などを学びました。最後に見学を踏まえての質疑応答がありました。参加者からは,例えば製造装置で用いている設定値について,その値の採用に至った経緯などの質問がありました。
以上が今大会の概要です。中部地区で活躍する木質系の研究者,技術者,学生らにとって,有意義な研究交流の機会となりました。
文責:小川敬多

口頭発表会場の様子

見学会の終わりに記念撮影
◆第52回木材の化学加工研究会シンポジウム「産学官連携でみえる木材の化学加工の未来予想図」開催報告
└(森林総研)松永正弘
木材の化学加工研究会では去る2024年11月14日(木)、15日(金)の2日間に渡り、第52回木材の化学加工研究会シンポジウムを開催しました。1日目はつくば国際会議場(茨城県つくば市)での講演会、2日目は前田建設工業株式会社ICI総合センター(茨城県取手市)での見学会が行われました。シンポジウムの参加者数は、1日目の講演会が35名、2日目の見学会が22名でした。
1日目の講演会では、当研究会の代表幹事である京都府立大学の宮藤久士先生による開会の挨拶の後、6名の講師の方々から木材研究の最前線についてのご講演を賜りました(写真1)。東京農工大学の加用千裕先生からは「脱炭素社会に向けた木材の炭素フロー・ストックの可視化」というタイトルで、世界および日本における木材に関わる炭素のフローおよびストックを定量化する研究をご紹介いただきました。東京学芸大学の大谷忠先生からは「トライボ化学反応による木材表面の高機能化」というタイトルで、摩擦によって発生するエネルギーを利用した新たな表面処理の特徴とこれまでに得られた代表的な成果についてご紹介いただきました。森林総合研究所の山下香菜先生からは「スギの材質変動と細胞壁化学構造の解明にむけた取り組み」というタイトルで、主として構造用材料に求められる木材の性質に関して、個体内及び個体間の変動と、細胞壁の化学構造及び人工乾燥で生じる変化に関する研究をご紹介いただきました。森林総合研究所の久住亮介先生からは「三次元磁気拘束下のNMRとその応用展開」というタイトルで、反磁性微粒子の磁場応答を積極活用した磁場配向法についての研究をご紹介いただきました。港湾空港技術研究所の山田昌郎先生からは「久里浜湾沿岸での木材海洋暴露実験の概要」というタイトルで、木材・プラスチック複合材(混練型WPC)や低分子フェノール樹脂処理木材、熱処理木材、アセチル化処理木材などの化学改質木材について実施してきた海洋暴露実験の結果についてご紹介いただきました。前田建設工業株式会社の冨田健先生からは「『中大規模木質構造』における維持管理の取り組み」というタイトルで、前田建設工業(株)の木質構造に関連する取り組みや、それに関わる維持管理の取り組み等についてご紹介いただきました。
2日目の見学会では、ICI総合センター内にある人工気象実験施設や風環境実験施設、大型可視化土槽、音環境実験設備など、様々な大型実験設備を見学させていただきました。また、1934年に東京都港区白金台に建設され、2022年にICI総合センター敷地内に移設された旧渡辺甚吉邸(国登録有形文化財)内の見学(写真2)も併せて行われました。
今回のシンポジウムでは、コロナ禍以降開催を見合わせていた懇親会と見学会も5年ぶりに開催され、ようやく以前と同じスタイルのシンポジウムに戻すことができました。当研究会では今後も直接顔を合わせる現地開催にこだわりつつ、木質資源の有効利用に向けた新技術や今後の展望に関する最新の知見を得られるシンポジウムを企画していきます。

写真1 講演会の様子

写真2 旧渡辺甚吉邸
◆2025年度「樹木年輪」研究会開催報告
└(森林総合研究所森林バイオ研究センター)髙田直樹
日本木材学会組織と材質研究会は、2025年11月15~16日にinadani sees(伊那市産学官連携拠点施設)で開催された2025年度「樹木年輪」研究会(世話人 安江恒先生(信州大学))を共催しました。初日は「気候変動下における樹木肥大成長変化の予測(Forecasting the changes in tree radial growth under climate change)」と題したシンポジウムがあり、2日目には「樹木年輪」研究会の定例会が開催されました。シンポジウムでは、韓国・忠北大学のJun-Hui Park博士から高CO2環境により生じる樹木の木部組織構造の変化に関するご講演があり、続いて神戸大学のChristmas Uchiyama氏から連続的な幹加温がスギの形成層活動および木部構造に与える影響についてご講演がありました。また、岐阜大学の斎藤琢准教授から生態系レベルの炭素循環モデルを用いたスギの肥大成長予測に関してご紹介いただきました。2日目は、「樹木年輪」研究会の定例会として、口頭発表4件ポスター発表13件を実施しました(プログラム参照)。参加者は、オンサイト38名、オンライン6名(シンポジウム)で、お子さんを連れた研究者も参加され、和気あいあいとした雰囲気で研究会を開催することができました。また、2026年度の「樹木年輪」研究会は、Asian Dendrochronology Conference (Nagoya)で代替開催とし、2027年度は千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館で開催することが決定しました。組織と材質研究会では、今後も「樹木年輪」研究会と協力しながら、木材組織・材質の研究に関わる情報共有の場をつくっていきます。
**********研究発表会のプログラム**********
<口頭発表>(発表者のみ記載)
1. 北海道のウダイカンバ成木における衰退前の肥大成長に影響する気候要素-地域間比較-:大野泰之(道総研林試)
2. 奈良文化財研究所から開示された年輪年代関連データの評価:丸地三郎(古代史ネットワーク)
3. 池上曽根遺跡の大型堀立柱の年代測定:佐野雅規(歴博)
4. サンゴ年輪を用いた気候復元:中村修子(明治大)
<ポスター発表>
1. 静岡県内の樹木園に植栽された広葉樹における道管形態と曲げ性能との関係:岩下諒祐(山形大農)
2. 樹幹温度に着目した寒冷地におけるスギの年輪形成:亀岡恒介(山形大農)
3. 根元曲りスギにおける仮道管長の樹幹内変動:髙橋希(山形大農)
4. モンゴルの針葉樹天然林木の肥大成長:根津郁実(宇大農)
5. 日本古代史の探究と年輪年代法:清水徹朗(日本古代史ネットワーク)
6. 年輪酸素同位体比を用いた中世木製橋脚の年代推定:弓場翔太(名大工)
7. 東京農業大学世田谷キャンパスに生育するユーカリの肥大成長(その2)-成長量と気候情報との関係-:桃井尊央(東京農業大)
8. 北海道の南限地域に生育するアカエゾマツの気候応答解析:森脇育吹(道総研林試)
9. カラマツ年輪における炭素安定同位体比の気候応答解析:小林敬子(京大農)
10. ¹³CO₂パルスラベリングを用いたスギの幹と葉における貯蔵物質の季節変動の解明:大井川和心(信大総合理工)
11. 切り株は生きている!? -根系連結による生残の可能性-:楜澤里美(山形大農)
12. モンゴル北部に生育するシラカンバにおける炭素同位体比の年輪内変動および年次変動:倉田遼大(信大院)
13. スギ精英樹における形成層活動:工藤佳世(秋県大木高研)
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