ごあいさつ

日本木材学会会長  岩田 忠久

 この度は、一般社団法人日本木材学会第35代会長に選出頂きまして、誠に光栄に存じます。日本木材学会は、1955年に「木材をはじめとする林産物に関する学術および科学技術の振興を図り、社会の持続可能な発展に寄与すること」を目的として設立されました。歴史と伝統のある本会の舵取りを任せて頂き、大変な重責を感じておりますが、会員や理事の皆様方のご支援のもと、全力で務めさせていただく所存ですので、何卒よろしくお願い申し上げます。
 2020年1月に日本で新型コロナウィルスが検出されて以来、学会の活動は大きく制限されました。しかしながら、不安の中でも、年次大会の開催、学会誌や英文誌の発行、学会賞等の選考、支部や研究会の活動など、学会がやるべきことを粛々と実行して参りました。
 2022年度には、本分野の基本教科書となる「木材学」(基礎編と応用編)を発刊いたしました。また同時に、科学研究費補助金「国際情報発信強化」に採択され、海外の木材関連学会と共同での国際ミニシンポジウムの開催、若手研究者・女性研究者の国際会議への参加をサポートする国際交流奨励賞の設置など、積極的に新たな取り組みを行ってまいりました。さらに、特定の分野を深く様々な角度から議論する産学官連携シンポジウムの開催も行いました。これらすべての取り組みは、学会内での交流や情報交換に留まるのではなく、広く異なる分野の世界の方々とつながり、世界規模での木材学の発展を目指すものです。
 現在、地球温暖化防止に向けた二酸化炭素排出量制限、持続可能な資源循環、地球環境保全の観点から、木質材料にこれまでにない大きな注目と期待が寄せられています。木材を始めとする天然素材は、その構成成分のみならず、構造も非常に複雑で、様々な環境下でも生存していけるように、自ら進化してきました。我々は、複雑であいまいでありながら、精緻な構造を有する木質材料を様々な学問分野の視点から理解できるように努めてまいりました。学会が持つこれらの豊富な知識が、今、様々な分野の研究者・技術者、さらには社会から求められているものと存じます。
 学会としては、これらの期待に応えるべく、更なる発信力の強化が必要であると考えております。そこで、会員の皆様方には、ご自身の学問的知識と技術を学会外の方々に積極的に伝える努力をしていただきたいと思っております。木材は、「建材」としてのイメージが強く、木材がどのような組織構造で成り立っているか、木材からどのような有用成分が獲得できるか、木材の持つ大きな可能性についてはまだまだ世の中ではよく理解されていません。その理解を広げるために、自ら積極的に他学会等で発表をしていただくと同時に、木材学に興味を持っておられる様々な分野の方々を、学会に受け入れていただき、新たな多くの木材学のファンを作っていただきたいと思います。さらには、異分野の方々と一緒に、共同研究や予算申請を積極的に行っていただき、既存の木材学にとらわれない、新たな木材学を発展させるべく、境界分野学問領域の創出にも取り組んでいただきたいと存じます。
 2025年に、本会は設立70周年を迎えます。記念年次大会、記念国際シンポジウム、記念式典を挙行し、国内外の異分野の方々との交流の場を作りたいと考えています。会員の皆様方におかれましても、本会の活動に積極的に参加していただき、ご自身の研究と学会の益々の発展に繋げていただければ幸いです。持続可能な社会の構築と美しい地球環境を子々孫々にまで残すという地球規模の大きな課題解決に向けて、木材学会が核となって様々な取り組みを精力的に行えるよう努力したいと考えております。
 今後ともご支援ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。