日本木材学会 組織と材質研究会
会員からの情報提供 2004.5.19

林木育種センターからの林木遺伝資源の供給体制について

林木育種センター東北育種場 中田了五
E-mail: ryogo@affrc.go.jp

1. はじめに
2004年4月24,25日に行われました、組織と材質研究会(レオロジー研究会 共催)春のシンポジウムの総合討論の席上、筆者は次のような質問を受けまし た。
「林木育種センターは実験材料(苗木など)どういうものをどういう風に提供 できるのか?」
この質問に答えた内容を補足して、web上に情報提供します。

実際に「これこれこういうものが欲しいんだけど」という場合は、林木育種セ ンター遺伝資源部に相談していただくことになります。実際の供給の可否など 申請前に確認する必要があります。
または、筆者に相談していただいても構いません。

2. 経緯
組織と材質研究会では年2回程度シンポジウムなどを開催しています。最 近のプログラムを眺めてみると、生化学的手法を駆使した木材(木質)の形成 に関する研究が増えていることに気付くでしょう。樹木が木材(木質)を形成 する時は、遺伝情報に基づいて、生化学的な過程を経て、様々な表現形が出来 上がり、肉眼または顕微鏡などで観察できる形態となります。また、現代生物 学においては、遺伝子および遺伝情報を無視した研究を行うことはあり得ない といってもいいでしょう。
近年、木材(木質)の形成の研究の発展に伴い、既に遺伝子の探索などを行う 研究の報告が組織と材質研究会でもみられるようになってきています。このよ うに遺伝子を扱う場合、また遺伝情報とリンクした諸形質の発現・形態などを 見ようと思う場合、共通の遺伝的基盤を持つ材料を共同して利用しようという 考え方がでてきます。材料を共通して使うことによって成果の共有が容易にな ります。たとえばヨーロッパでのポプラ、北米でのロブロリーパインなどで は、共通する遺伝的系統を共同して用いて、ゲノムプロジェクトのみならず、 生理学、生化学、組織学、遺伝学的な研究を行い、その研究で得られた様々な 情報を共有しています。
以上のような背景から組織と材質研究会でも、樹種を統一して研究しようと か、樹種の中でも特定の系統で研究しよう、などといった話がでてきています (もっとも他の樹種・遺伝的系統での研究を妨げるものではなく、なるべく共 通樹種・遺伝的系統も研究材料の一部には入れて行こうという考えだと理解し ています)。この議論は議論が始まったという段階で、現状ではどの樹種にす るかなど具体的な話はそれほど挙っていません。
各大学演習林・植物園などでも様々な樹種、様々な遺伝的系統を研究材料とし てお持ちかと思いますが、林業対象樹木について日本で最も多くの樹種、多く の遺伝的系統を組織的に保存しているのはおそらく林木育種センターでしょ う。そこで前出の質問が行われました。
シンポジウムでの答えは不十分な上に、参照するべき資料などを示すことも出 来ませんでした。また、シンポジウムに不参加の方々にもあわせて情報提供し たく思いました。以下に現在林木育種センターで保有している材料とその試験 研究用の配布について簡単に説明します。

3. 答え:林木育種センターの遺伝資源配布
林木育種センターでは、有用な林木の遺伝資源を探索収集して保存し、配 布可能なものについては試験研究用に配布するという事業を行っています。
例えば、「XYZ」(仮称)という名称のスギの品種のさし木クローンが欲しい という場合、そのXYZという品種を林木育種センターで保存しておりかつ供給 可能な場合、穂木としてそのクローンを手に入れることができます(たまたま 試験等で使用済みの苗木が保存されている場合には、苗木での提供も可能な場 合があります)。
林木遺伝資源の収集・保存については
http://ftbc.job.affrc.go.jp/html/iden/idenTOP.htm
をご覧ください。

保存している遺伝的系統の中身は、主な林業対象樹種の精英樹や重要な林木遺 伝資源として収集された個体です。
スギ、ヒノキ、カラマツ、トドマツといった重要な針葉樹造林用樹種では多数 の精英樹が選ばれており(例えばスギでは全国で3600個体以上の精英樹が選ば れています)、そのほとんどについてクローンとして保存されています。
広葉樹の精英樹については種数も種内での系統数も少なく、かつほとんどが北 海道から選ばれていますが、シラカンバ、ヤチダモ、ミズナラ、ブナ、ドロノ キなどがあります。精英樹以外でもケヤキなどこれまでに収集してきた他の樹 種もあります。
以上は成体として保存していますが(生きた木が場内に植栽されている)、そ の他に種子、花粉としても収集して保存(冷蔵または冷凍)しています(成体 に比べると種数、種内の採取個体数は少ないです)。ただし、種子の場合、母 親は明らかになっている場合が多いですが、一般に父親は不明です。
これらの一覧はweb上に公開されています(ただし試用版)。
http://labglt.nftbc.affrc.go.jp/haifu.htm

保存されている遺伝資源のうち、供給可能なもの(例えばまだ苗木の時にそこ から穂木はとれません---枯れてしまいます)については、試験研究用として 遺伝資源の配布を受けることができます。この場合、「独立行政法人林木育種 センター試験研究用林木遺伝資源配布規程」に基づいて申請をしていただい て、配布を受けるということになります。配布は有料(例えば穂木の場合、 1系統20本で3349円)で、報告書を出す必要もあります(簡単な報告書で す)。
遺伝資源の配布については、以下を参照ください。
http://ftbc.job.affrc.go.jp/html/iden/haifu/haifuTOP.htm
「独立行政法人林木育種センター試験研究用林木遺伝資源配布規程」は以下を 参照ください。
http://labglt.nftbc.affrc.go.jp/kitei.htm

実際の配布の可否、具体的な配布の方法や時期などは、配布申請書の提出前 に、下記まで電話等で打ち合わせを行っていただくと配布が円滑に進みます。

林木育種センターでの遺伝資源配布の詳細は、
林木育種センター遺伝資源部
〒319-1301
茨城県多賀郡十王町伊師3809-1
Ph.0293(32)7048 Fax.0293(32)7352
にお問い合わせください。