木材学会会員への意見募集でいただいた意見とそれへの対応の記録

木材解剖学用語集案



会員対応6

繊維、仮道管、真正木繊維、繊維状仮道管、道管状仮道管、周囲仮道管、道管、道管要素をまとめて考察します。 会員意見としていただいたものは、主に繊維状仮道管と真正木繊維の違いまたはそれぞれの定義に関わるものです。この問題はみなさんご存知のとおり大昔からの議論があるものですが、要は典型的真正木繊維と繊維状仮道管(さらに道管状仮道管)が連続的に変異していることが原因です。会員意見は個々の用語についていただいているものと、tracheary elementについて(http://www.jwrs.org/kenkyu/wa_wp/new_glossary/public_comment/public_comment_wa/fujii20230318/tracheary_element.html)いただいているものがあります。 会員意見にあるように、たとえばBaas 1985, 1986が主張するような3µmの閾値を設けた定義を行うことは不可能ではありませんが、この件に関してはCalquist 2001 107-151ppで詳細に議論されているように、決着のついていない問題と考えることもできます。3µmの閾値を設けるような定義やこの件に関する議論は教科書等にゆずることにして、現行用語集にあるような歴史的な定義を基本として記述することは誤りではないと考えます。 ーーーーー 繊維 長く、通常先端が細く、木化したあるいは木化していない二次壁を持つ厚壁細胞。木材解剖学では道管及び柔組織以外の全ての細長い細胞に対する総称として便宜的に用いられる。 ↓ 長く、通常先端が細く、木化したあるいは木化していない二次壁を持つ細長い細胞(要素)。二次木部では道管及び柔組織以外の全ての細長い細胞(木部構成要素)に対する総称として便宜的に用いられる。 厚壁細胞->細長い細胞 理由-柔細胞と見分けが困難な薄壁のwood fiberもある 木材解剖学では->二次木部では 理由-師部繊維もまた繊維に含めた定義とする場合には矛盾する 対応案 ・用語集改定案では、「繊維」は木部細胞以外の繊維も含む定義とするため、会員意見にある「二次木部」への変更は行わない(「木部構成要素」についても同様) ・薄壁のwood fiberは通常厚壁となるべきであったfiberが薄壁となった特殊な例と考えて、繊維の定義では考慮しない。 ・師部繊維に対しては矛盾しない よって修正しない ーーーーー 仮道管 同類要素との間に有縁壁孔をもち、かつ穿孔をもたない木部細胞 ↓ 同類要素との間に顕著な有縁壁孔を持ち、かつ穿孔を持たない木部細胞。tracheary elementの1type 「顕著な」-理由:繊維状仮道管などの有縁壁孔との書き分けが必要 2文目追加(日本語化して?)-理由:注釈として追加 「もつ」漢字化 コメント 「同類要素」は道管要素または仮道管と読めるか? 対応案 「顕著な」追加、漢字化-採用(「顕著な」は真正木繊維や繊維状仮道管などに対する議論を考慮すると付け加えることが適当と判断) 2文目追加-採用しない(tracheary elementそのものの問題があるため<-後日議論) 「同類要素」仮道管間の話と考えて特に問題がないため考慮しない 修正案 仮道管 同類要素との間に顕著な有縁壁孔を持ち、かつ穿孔を持たない木部細胞 ーーーーー 真正木繊維 細長くて一般に厚壁をもち、かつ単壁孔をもつ細胞。普通道管要素および柔組織ストランドの長さから推測した形成層始原細胞の長さより明らかに長い ↓ 細長く、かつ壁孔縁が微細で小径の有縁壁孔で見かけ上の単壁孔を主に放射壁に持つ木部繊維。道管要素および柔組織ストランドの長さから推測した紡錘形始原細胞の長さより明らかに長いことが多い 理由-SEM観察等では、極小径であっても有縁壁孔を持たないwood fiberは認められていない コメント-IAWA hardwood listでは「libriform wood fiber」の用語は、その定義に議論が残っているために、意図的に除外されています。新「用語集」に見出し語とする場合には、明確な定義が必要です。IAWA hardwood listでは主な2つの定義が説明されていますが、私は、Baas(1985、1986)に賛同する立場です。二次木部のwood fibersはの壁孔は極微細であっても壁孔室を持つとの見解ですので、「見かけ上の単壁孔」の記述も定義から削除して注釈に留めたいと考えています 対応案 会員意見のとおり、議論があるところであるが、歴史的経緯も含めて用語は採用し、歴史的定義を採用。「見かけ上の単壁孔」の記述はこれのみだと意味がわからないため採用しない(詳細な記載が必要であり、注にするとしてもかなり長くなってしまう->教科書等に議論は譲る)。見かけ状の単壁孔を「単壁孔」と記述すると考えることもできる。 持ちの漢字化 1文目の最後は木部の細胞だということを明らかにするため「木部細胞」とする(仮道管にあわせる) 2文目最後の「ことが多い」は採用(こちらの書き方の方が適切) 修正案 真正木繊維 細長くて一般に厚壁を持ち、かつ単壁孔をもつ木部細胞。普通は道管要素および柔組織ストランドの長さから推測した形成層始原細胞の長さより明らかに長いことが多い ーーーーー 繊維状仮道管 繊維状の仮道管。普通厚壁で細胞内腔が小さく両端が尖り、有縁壁孔対はレンズ状ないし線形の孔口をもつ。 注: 繊維状仮道管と真正木繊維との間には漸進的な中間型が認められ,両者を明確に区分することは困難な場合が多い。 ↓ 普通は厚壁で細胞内腔が小さく両端が尖り、レンズ状ないし線形の孔口の有縁壁孔対を持つ木部繊維。 理由-「普通厚壁...」とすると「普通厚壁」というひとつの複合語と認識されるので、「普通は厚壁...」が適切 理由-改定案の「繊維状の仮道管」について、IAWA用語集ではfibre-tracheidは「A fibre-like tracheid」とされているが、同時にfibreは「Often further qualified as wood fibres or bast fibres」とされていて、fiberに分類されるtracheidからfiber-like tracheidを区別することには矛盾がある 対応案 「普通」->「普通は」-採用(「普通」ないしは「普通は」は文全体にかかると判断し、「普通は、」とする) 会員意見のように修正するとさらに矛盾が増えていくため、1文目は現行用語集を踏襲する。 修正案 繊維状仮道管 繊維状の仮道管。普通は、厚壁で細胞内腔が小さく両端が尖り、有縁壁孔対はレンズ状ないし線形の孔口をもつ。注: 繊維状仮道管と真正木繊維との間には漸進的な中間型が認められ,両者を明確に区分することは困難な場合が多い。 ーーーーー 木部繊維 木部の繊維。特に、裸子植物の仮道管と木本被子植物の真正木繊維および繊維状仮道管の総称。 コメント-道管状仮道管および周囲仮道管をtracheary elementとしてwood fiberと区別する意図があるのか? コメント-広葉樹の識別では、「「fiber」は学術用語集植物学編では「繊維」であるが「IAWA list」の原文中で「fiber」は常に「wood fiber」を意味し、繊維を説明する「wood」が省略されている。この日本語版では、読者が理解しやすいように、「繊維」と直訳しないで「wood fiber」と理解して「木部繊維」の用語を用いている」と記述している 対応案 2文目は「特に」とあるように道管状仮道管と周囲仮道管を排除するものではないと考える 用語集改定案は木部のみを扱っているのではないため、「繊維」は木部繊維以外も含むのでコメント2は考慮しない 修正なし ーーーーー 周囲仮道管 道管の周囲に存在する短い不規則な形の仮道管で、軸方向の定まった連なりをなさない ↓ 穿孔を持たない管状通水要素で、隣接する道管との間に壁孔縁の明瞭な有縁壁孔を多く持つ。道管の周囲に存在し、基本組織の木部繊維とは異なり、不規則な形状をしていることが多い。 理由-広葉樹の識別では「穿孔のない細胞で、放射壁および接線壁に壁孔縁の明瞭な有縁壁孔を多くもつ。道管の周囲に存在し、(常ではないが)基本組織の木部繊維とは異なり、不規則な形状をしていることが多い」としている 理由-改定案(現行用語集)の後半の記述の意図が不明 対応案 広葉樹の識別にある「IAWA用語集には短いことと形が不規則なことを周囲仮道管の定義に含んでいるが、この定義はいつも適用できるわけではない」という記述と会員意見を取り入れ、さらに道管状仮道管と対比した記述として以下の修正を提案する 修正案 周囲仮道管 道管の周囲に存在する仮道管。穿孔を持たず、有縁壁孔を持ち、不規則な形状をしていることが多い。 ーーーーー 道管状仮道管 形および位置が小道管に酷似するが、穿孔をもたない木部細胞 ↓ 形および位置が小径道管に酷似するが、穿孔を持たない管状通水要素 理由-「小道管」ではなにが小なのかを表現できていない。長さ方向の小とも誤解されうる 対応案 会員意見を取り入れ、周囲仮道管と対比した記述として以下の修正を提案する 修正案 道管状仮道管 大きさや形および配列が小径の道管要素に似ている仮道管。穿孔を持たず、有縁壁孔を持つ。 ーーーーー 道管 道管要素が軸方向に連続して合体し,不確定の長さで分節を持った管状の構造を形成しているもの。同類要素との間に有縁壁孔をもつ。 ↓ 2細胞以上の道管要素が穿孔を介して連続した組織。木部の主要な通水組織であり、一般的には軸方向に非常に長く連続し、道管相互間およびその他の管状通水要素との間に顕著な有縁壁孔を持つ。 IAWA用語集: An axial series of cells that have coalesced to form an articulated tube-like structure of indeterminate length; the pits to congeneric elements are bordered. Esau's plant anatomy: A tube-like series of vessel elements, the common walls of which have perforation 対応案 会員意見、現行用語集、Esau's plant anatomyの記述を参考に修正提案。壁孔の話は道管要素で記述。道管は組織ではないと判断。 修正案 道管 道管要素が軸方向に穿孔を介して連続している管状構造。 ーーーーー 道管要素 vessel member / vessel element 道管を構成する1個の細胞。ひとつの道管を構成する軸方向に連続した道管要素同士の間の細胞壁には穿孔が存在する。 ↓ vessel element / vessel member 1つ以上の穿孔を持つ管状通水要素。1本の道管を構成する軸方向に連続した道管要素相互の間の細胞壁には穿孔が存在する。 理由 同士より相互の方が日本語として適切。IAWA hardwood listではvessel elementのみ 対応案 google scholar検索では、期間指定なしで"vessel element" 5480、"vessel member" 1300でelementが優勢、2022年以降で"vessel element" 309、"vessel member" 19でelementが優勢。会員意見のIAWA hardwood listではelementのみとの意見も考慮する。よって、現行用語集にならいmemberとelementはどちらを用いてもよいこととするが、elementを先にする->これにともない篩管要素も変更(sieve tube element / sieve tube member)<-後日再度議論 一部会員意見を採用「1本の道管」「相互」 道管にあった壁孔の話をここに追加 修正案 道管要素 vessel element / vessel member 道管を構成する1個の細胞。1本の道管を構成する軸方向に連続した道管要素相互間の細胞壁には穿孔が存在する。放射方向または接線方向に別の道管要素または仮道管と接する時には、それらとの間の細胞壁には有縁壁孔対が存在する。 ーーーーー ーーーーーー