管孔および関連語について

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管孔および関連語について
木材解剖学ににおける「管孔 (pore)」とは、二次木部横断面で観察される径が比較的大きい要素である道管要素 (と道管) および道管状仮道管の総称である。二次木部横断面を肉眼で観察したとき、仮道管や木部繊維の内腔は確認することができないのに対し、大径の管孔では木部表面に存在する小さな孔として内腔を認識することができる。このことから、管孔の存否による「有孔材 (pored wood)」「無孔材 (non-pored wood)」の区別、管孔の分布や配列 (これらの様式を「管孔性 (porosity)」と呼ぶ) による「散孔材 (diffuse-porous wood)」「環孔材 (diffuse porous-wood)」、「半環孔材 (diffuse porous-wood)」の区別を行ってきた。さらに、肉眼のみならずルーペなどの使用も加えて管孔の分布や配列を観察すると、散孔材や環孔材の孔圏外での管孔の分布や配列について、放射孔材、紋様孔材、環孔波状材、環孔放射材などという用語を用いて記述することができる。光学顕微鏡の使用によりさらに観察解像度を上げると、個々の管孔が直接接しているかどうかが観察可能となり、管孔が孤立しているあるいは接合しているかが認識できるようになって、孤立管孔と複合管孔を区別できるようになる。
以上はすべて横断面での観察に基づく記述である。この際、小径の道管要素と道管状仮道管を横断面ではその形態のみでは通常区別できないことに留意する必要がある。なお、実際上は多くの樹種において管孔として観察されるものの大部分は道管要素である。また、ある横断面で孤立している道管であっても立体的に観察あるいは考察すると別の道管と放射方向や接線方向あるいは斜めに接合していてその接合点では複合管孔となっている場合があること、逆にある横断面で複合しているかのようにみえてもその接触が側壁のごく一部にとどまる場合があることに留意する必要がある。
現行用語集およびIAWA用語集では、管孔の孤立あるいは複合について、孤立管孔solitary pore等の用語を採用し、孤立道管などという表現をとっていない。しかし、近年の用法では、道管分布、道管配列、孤立道管、鎖状道管、道管の複合など、poreをvesselで置き換える用法が増えていて、IAWA hardwood listおよび広葉樹材の識別では、道管もしくは管孔の木口面での分布・配列について、管孔性porosity、道管の配列vessel arrangement、道管の複合vessel groupingなどという用語を採用している。

以上を勘案して、新用語集案では、以下の方針に基づいて用語の記載をおこなった。
・管孔性や道管の配列などを総合的に説明する新規項目「道管の分布と配列」を作成する。その注において孤立管孔->孤立道管等の変更について述べる。なお、「道管の分布と配列」は、道管の配列とするとその中で説明している管孔性を除く狭義の「道管の配列」 (この概念はIAWA hardwood listおよび広葉樹材の識別で採用されている) と混乱するため、「道管の分布と配列」という見出し語とした。
・孤立道管および複合道管については、現行用語集の孤立管孔および複合管孔と (ほぼ) 同義であるとの判断のもと、近年の用語使用例に基づき、孤立道管と複合道管を主たる用語とし、孤立管孔と複合管孔を同義語とする。
・孤立管孔と複合管孔は現行用語集、文部省学術用語集植物学編に記載された用語であること、近年刊行された教科書等での採用もあることから、見出し語として採用し、孤立道管や複合道管を参照する。
・現行用語集およびIAWA用語集では、放射複合管孔radial pore multipleは見出し語ではなく、集団管孔pore clusterは複合管孔pore multipleを参照となっていて、これら2語は複合管孔の中で記述されている。一方、IAWA hardwood listおよび広葉樹の識別では、放射複合道管vessels in radial multiplesおよび集団道管vessel clusterの記述があるのに対して、「複合道管」全体に相当する定義がない。新用語集案では、現行用語集に準じて複合道管を大見出しとし、その小見出しに放射複合道管と集団道管を位置付けることにした。よって、複合管孔と放射複合管孔と集団管孔は見出し語とした上で複合道管を参照、放射複合道管と集団道管は見出し語とした上で複合道管の小見出しとした。これらの用語はIAWA hardwood listと広葉樹の識別で重要な用語となっている。
・現行用語集およびIAWA用語集では、鎖状管孔pore chainが定義されているが、この用語は現行用語集およびIAWA用語集の定義のとおり孤立管孔が鎖状になって分布している管孔の集まりを指すこともあるが、放射複合管孔をふくんだ道管の鎖状配列を指すこともあるため、現行用語集で採用されていることから見出し語としてはのこすが新規項目「道管の分布と配列」を参照しその注で言及することとした。
・管孔の扱いと道管の分布と配列に関連し、半環孔材の記述を見直し。
・管孔の扱いと道管の分布と配列に関連し、我が国で歴史的に用いられる用語である放射孔材と紋様孔材を見出し語とし、散孔材を参照して散孔材の定義の中で記述。
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