ウッディエンス・メールマガジン

 

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■ ウッディエンス メールマガジン          2010/03/31  No. 015   
■                                    
■  木材の科学は日進月歩! 日本木材学会から最新の情報をお届けします  ■
                                     ■
                      発行 日本木材学会広報委員会 ■
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                    日本木材学会広報委員会委員長 林知行
                                                         

■本号の目次■

・本号では、レオロジー研究会2009年度講演会および見学会の報告と、2009年度日
本木材学会賞,同奨励賞,同地域学術振興賞、同技術賞,同論文賞を受賞された方
々の受賞の声を掲載します。なお、未着、未掲載の方については、次号以降に掲載
します。 
 

◆日本木材学会レオロジー研究会2009年度講演会
「木材の加工ならびに利用の基礎から応用までを支える木材研究」開催報告
                  杉山真樹(独立行政法人森林総合研究所)

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◆第50回日本木材学会賞
 『リグニン生合成に関与するペルオキシダーゼおよび4-coumarate:CoA ligase
に関する研究』
                 堤 祐司(九州大学大学院農学研究院)

◆第50回日本木材学会賞
 『木材用接着剤の硬化反応機構と木質材料からのホルムアルデヒド等VOC放散特性
の解明』
                 塔村 真一郎(独立行政法人森林総合研究所)
◆第21回日本木材学会奨励賞
 『木材の不安定性と微細構造』
                神代 圭輔(独立行政法人産業技術総合研究所)

◆第18回日本木材学会地域学術振興賞
『食用きのこ類に関する研究』
                金子 周平(福岡県森林林業技術センタ−)

◆第18回日本木材学会地域学術振興賞
『徳島県において伝統的に集積された木工・家具製品の製品性能向上の研究と普及』
                山田 順治(徳島県立工業技術センター)
 
◆第18回日本木材学会地域学術振興賞
『木材強度研究による学術振興と富山地域の木材関連産業活性化への貢献』
                中谷 浩(富山県農林水産総合技術センター)
 
◆第11回 日本木材学会技術賞
『国産材を用いた木質I形梁の製造技術・評価手法・利用技術の開発』
                   大橋 義コ(北海道立林産試験場)
	                 松本 和茂(北海道立林産試験場) 	
	                 戸田 正彦(北海道立林産試験場)
	 	
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◆日本木材学会レオロジー研究会2009年度講演会
「木材の加工ならびに利用の基礎から応用までを支える木材研究」開催報告
                  杉山真樹(独立行政法人森林総合研究所) 

 2009年8月20日(木)〜21日(金)の2日間、静岡県立森林公園「森の家」におい
て、日本木材学会レオロジー研究会2009年度講演会および見学会(主催:日本木材
学会、レオロジー研究会、後援:産総研コンソーシアム持続性木質資源工業技術研
究会、協賛:(社)日本木材加工技術協会)を開催しました。
 今回の講演会は、「木材の加工ならびに利用の基礎から応用までを支える木材研
究」をテーマに、木材の加工あるいは利用にとって関わりの深い研究テーマについ
て、その分野の第一人者にわかりやすく解説してもらうことにより、最先端の研究
者のみならず、広く製造現場の技術者や研究開発担当者や木材を研究する学生の皆
様に、レオロジーや木材物理学をより身近に感じてもらうとともに、参加者各々の
研究や技術開発に役立ててもらうことを目標として、企画しました。
 本報告では、研究会幹事として、今回の講演会および見学会の企画・運営に中心
的に関わった立場から、その概要について報告いたします。

◇この続きは下記のリンクからご覧ください。
 http://www.jwrs.org/woodience/mm015/sugiyama.pdf 

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◆第50回日本木材学会賞
 『リグニン生合成に関与するペルオキシダーゼおよび4-coumarate:CoA ligase
に関する研究』
                 堤 祐司(九州大学大学院農学研究院)

 木質バイオマスは化石燃料の代替となる循環型エネルギー資源として最も高いポテ
ンシャルを有しています。一方で,木質の主要構成成分の一つであるリグニンは木質
バイオマスからの液体燃料生産に際しては,阻害的に作用します。現在は,バイオマ
ス資源としての木質生産の観点から、樹木のリグニン生合成に関する基礎およびリグ
ニン生合成抑制に関する研究が活発に行われています。私は大学院博士課程(平成元
年)からリグニン生合成に関与するペルオキシダーゼに関する研究を始めました。当
時は木質をバイオマスエネルギーに利用するという考えは一般になく、パルプ用材と
してリグニンの少ない木を遺伝子組換えにより創出するという考え方がありました。
1990年代はリグニン生合成研究の最盛期であり、それまでに見つかっていなか
ったリグニン生合成に関わる酵素遺伝子が次々に単離され、従来の知見とは異なる新
たなリグニン生合成経路も提唱されました。その間に、私もペルオキシダーゼ研究に
加えて4-coumarate:CoA ligaseの研究も開始しました。  広葉樹リグニンはグアイ
アシル型とシリンギル型の2タイプから構成されておりますが、両者の分布は不均一
であり、中間層や道管の細胞壁には主としてグアイアシル型が、木繊維細胞壁のリグ
ニンはシリンギル型主体となっています。両リグニンの生合成は細胞の種類や部位、
分化の過程で巧妙に制御されている点は大変興味深いことから、シリンギルリグニン
の生合成をキーワードに研究を行ってまいりました。本研究では、シリンギル型リグ
ニンモノマー(シナピルアルコール)や高分子基質を効率的に酸化できる新たなペル
オキシダーゼアイソザイムを発見し、さらにそのアイソザイムが持つユニークな反応
機構も明らかにしました。本酵素は高分子リグニンの生成を触媒すると考えられます。
一方、モデル植物であるシロイヌナズナやポプラの4-coumarate:CoA ligaseはシナッ
プ酸のチオエステル化反応の触媒活性が見いだせない、あるいは非常に弱いことから、
リグニン生合成研究者間ではケイヒ酸経路の存在は否定的でありましたが、ニセアカ
シアの主要な4-coumarate:CoA ligaseはシナップ酸のチオエステル化を触媒すること
を示しました。先に報告されていた、安定同位体標識リグニン前駆体の投与実験結果
と私どもの結果は、植物は種によってリグニン生合成経路の多様性を保存しているこ
とを示唆できたと考えています。これら一連の研究に対して、今回栄えある日本木材
学会賞をいただくことになりました。これまでご指導、ご助言を頂いた諸先生方、ま
た一緒に研究を進めてきた沢山の学生の皆さんのおかげと深く感謝しています。また、
大会実行委員の一員としてたずさわった宮崎大会で受賞できるという幸運にも恵まれ
ました。
 樹木は道管要素、木繊維、柔細胞等の異なる細胞種の集合体であり、個々の細胞種
は異なる細胞壁形成・リグニン生合成プロセスを有していることが予想されることか
ら、今後はミクロな分化段階別、あるいは細胞レベルでのリグニン生合成過程および
制御機構を明らかにすることが出来ればうれしく思います。今後ともご指導の程、よ
ろしくお願い申し上げます。

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◆第50回日本木材学会賞
 『木材用接着剤の硬化反応機構と木質材料からのホルムアルデヒド等VOC放散特性
の解明』
                 塔村 真一郎(独立行政法人森林総合研究所)

 このたび栄えある日本木材学会賞をいただくことができました。これまでご指導、
ご支援を賜りました関係各位に厚く御礼申し上げます。
 本研究のバックグラウンドは、「木材用接着剤」です。中でもホルムアルデヒドを
原料とする接着剤の化学「Formaldehyde Chemistry」を一つの柱として研究を展開し
てきました。
 研究をスタートしたのは九州大学大学院時代の1980年代後半で、当時合板が南洋材
の造作用から針葉樹の構造用へ、高耐久、低ホル型に転換する過渡期であり、構造用
針葉樹合板に適したフェノール樹脂の硬化を速くすることが重要なテーマでした。い
ざ研究を始めると最も歴史の長い合成樹脂でありながら、硬化反応や速度については
不明なことばかりでした。そこで私たちは、「ゲル化速度」を指標として、樹脂濃度、
縮合度、フェノール/ホルムアルデヒド/アルカリ組成比の各因子とゲル化速度の関
係を系統的に明らかにし、コンピュータシミュレーションによって個々の硬化反応の
速度定数を決定しました。また、硬化促進物質を探索し、炭酸塩に共通する硬化促進
メカニズムを解明しました。
 次に私がポスドク時代の1990年代前半、アメリカ留学中にユリア樹脂の組成とホル
ムアルデヒド放散性について研究を始めました。手作りの装置を用いて、ユリア樹脂
硬化中のホルムアルデヒド放散量がメチロール基の2乗に比例することや硬化条件と硬
化した樹脂の熱安定性の関係を明らかにしました。限られた時間の中で、毎晩遅くま
で一人で実験したのを懐かしく思います。その後、森林総合研究所に移ってからもア
ミノ系樹脂の研究を続けました。ユリア樹脂が硬化後もホルムアルデヒドの放散が長
期間続くことが問題となっており、いろいろ試験した結果、長期放散は硬化樹脂中の
メチロール基の加水分解による脱離が原因であり、樹脂組成、硬化時の温度条件と関
連があることを明らかにしました。当時導入されたばかりの固体13C-NMRを利用でき
たことは幸いでした。
 90年代後半からはシックハウス問題への対応が喫緊の課題となり、様々な木質材料
からのアルデヒド類や揮発性有機化合物(VOC)を新しい小形チャンバー法で評価す
る研究を始めました。一連のVOC 研究の中で特に気になったのは、ある種の集成材か
ら異常な量のアセトアルデヒドが検出され、その原因が不明だったことです。暗中模
索の中、原因は一部の接着剤に含まれていたエタノールが酸化してアセトアルデヒド
になる現象であることを突き止めました。
 最近ようやくモノから人へ、コンクリート社会から木の社会へと世の中が動き出し
ました。疲弊する現代社会の行き詰まりに対する自然の営みへの回帰だと私は考えま
す。農学、林産学を選んだのも、学生時代の私の頭の中に同様の考え方があったのだ
と思います。これからも木材研究という仕事を通して、多くのなぞに挑戦し、解き明
かす喜びを味わいたいと思います。そして、それらが森林・林業・木材産業の発展、
木の社会づくりに少しでも貢献できれば幸いです。今後とも木材学会の皆様の尚一層
の御指導と御鞭撻を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

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◆第21回日本木材学会奨励賞
 『木材の不安定性と微細構造』
                神代 圭輔(独立行政法人産業技術総合研究所)

 温度変化や含水率変化にともなって木材物性が変化することは,よく知られていま
す。例えば,水分非定常状態下において著しいクリープ(メカノソープティブクリー
プ)が生じることが1960年代に初めて報告されるなど,水分及び熱と木材物性との関
係については古くから多くの研究がなされています。一方で,乾燥及び熱の「履歴」
が飽水木材の熱軟化特性に影響を及ぼすことが1990年代の中頃に初めて報告されまし
た。この報告が私の研究テーマである「木材の不安定性と微細構造」に関する研究の
端緒となりました。 研究テーマは次のような内容です。環境変化にともなって,木
材の微細構造は,新しい雰囲気における安定状態へと移行しようとしますが,環境変
化が著しいと移行に応答の遅れが生じ,不安定な構造をとると考えられます。この微
細構造の「不安定化」により,安定な構造をとる時と比較して,著しく異なる物性を
示すものと考えられています。こうした現象は,熱力学的な非平衡状態における現象
であり,これを特に「木材の不安定性」とよんでいます。材料として利用される木材
は,諸加工時及び使用時に温度変化,含水率変化をはじめとする様々な「履歴」を受
けるため,たとえ同じ木材を同じ含水率,温度環境下に置いても,過去の「履歴」が
違う場合には異なる物性を示すということです。本研究テーマに関する一連の研究成
果により,私は,木材の不安定性と微細構造との関連を初めて示し,様々な新たな知
見を得ました。その一例をあげると,伐採後の経過年数が0.1年から1300年の試料を
用い,ミクロ孔の空隙量を測定したところ,ミクロ孔の空隙量と経過年数の間に負の
相関が認められ,伐採後長期間使用環境中に置かれた乾燥木材の微細構造が,時間経
過にともなってより安定な状態に移行していくことが示唆されたことです。 以上の
ように,「木材の不安定性」の研究は,それにともなう微細構造変化と物性変化の関
係を解明する基礎的研究の面から興味深いだけでなく,実用上も,乾燥による割れや
反りの軽減,加工性の制御をはじめとした様々な技術への応用が期待され,木質系材
料の乾燥・製造・使用時の諸問題の解決にも貢献するものと考えられます。したがっ
て,「木材の不安定性」に関する研究は早急に取り組むべき重要な研究テーマです。
しかし,合成高分子材料や金属材料などの他材料では,物性研究の基本とされている
古くからの研究テーマも,天然生物材料である木材では数十年も遅れてその重要性が
認識され始めたところです。今後,本研究テーマに関連する基礎的研究のさらなる積
み重ねが,木質材料の利用促進につながる応用技術の発展に貢献することを願ってい
ます。
 最後に,本研究を進めるにあたり,ご指導,ご支援をいただいた皆様に対して,心
から御礼申し上げます。 

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◆第18回日本木材学会地域学術振興賞
『食用きのこ類に関する研究』
                金子 周平(福岡県森林林業技術センタ−)

 我が国の食用きのこ類の生産は順調に伸びてきており、平成20年次総生産額は2,640
億円となっています。きのこ栽培が、原木栽培から菌床栽培主体に変わったことが大
幅な成長につながったといえます。これに伴ってきのこ類に関する研究も原木栽培か
ら菌床栽培に移ってきました。私がシイタケ生産技術に関する研究に従事した昭和50
年代(1975年から約10年)は、乾シイタケが数少ない輸出農作物であり、香港市場で
もアジアの他国より優位な状況にありました。しかしながら生産量の伸びは、九州で
は原木であるクヌギの不足を招き、東北地方や県外からの移入に頼らざるを得なくな
りました。そのことが病害虫の侵入を招き、特に朝鮮半島〜対馬を経由して原木の移
動により侵入した「ハラアカコブカミキリ」はシイタケ原木を食害することにより被
害を与え、その防除は九州各県にとって重要な研究課題となりました。現地調査、飼
育試験により本虫の生態を解明し、耕種的防除法すなわち、産卵時期である春先に温
度上昇の低い林内に菌接種原木を置き林外に餌木として不要な枝木を置く方法で産卵
防止効果が得られました。また、1980年代初めから被害が出始めたヒラタケの白こぶ
病について、キノコバエによる病害線虫の媒介を予測し、これによりキノコバエの侵
入できないネット被覆での完全防除法を確立しました。
 1980年代後半から県内での強い要望に応え、新しい食用きのこ開発の取り組みを開
始しました。流通種菌が入手困難ということもあり、県内独自の種菌開発が命題であ
ったことから、野生きのこからの育種により新品種を創出する研究を開始しました。
まず、福岡県内きのこ生産者の若手からの要望により、ブナシメジ菌株に関する研究
を重ねて新品種を開発、彼らとの共同で商品化を進め、「博多ぶなしめじ」として世
に出すことができました。この生産量は急激に伸び、さらに若手生産者の加入もあっ
て、年間15億円以上の生産額となり、一大産業に成長しました。生産者を積極的に学
会に参加させるなどの指導が功を奏し、現在では生産者自らの品種改良により、更に
生産量を伸ばしています。また、さらに新しいきのこ商品としてヌメリスギタケの無
胞子株を育成して栽培実用化しました。これも「博多すぎたけ」として商品化されて
います。
 2000年代ではきのこ類の機能性に注目し、九州大学や企業との共同研究によりマン
ネンタケ抽出物の前立腺肥大抑制効果が明らかにされる中で、子実体発生技術や機能
性成分を多く含有する系統の育種を担当し貢献することができました。
 これらの研究が認められ、この度「地域学術振興賞」を受賞することができました。
学会関係者の皆様はじめ、共同研究でご指導頂いた先生方、また、一緒にきのこ研究
を進めている全国の公設試験場の仲間、きのこ生産者の方々、福岡県の上司や職場の
同僚、とりわけきのこ研究室の仲間に深く感謝致します。
 今後とも、きのこ研究に精進し、人々の役に立つ仕事をしていきたいと思います。

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◆第18回日本木材学会地域学術振興賞
『徳島県において伝統的に集積された木工・家具製品の製品性能向上の研究と普及』
                山田 順治(徳島県立工業技術センター)
 
 このたび、「徳島県において伝統的に集積された木工・家具製品の製品性能向上の
研究と普及」という業績で地域学術振興賞を受賞させて頂きました。私にとりまして
思いがけず、誠に身に余る光栄でございます。受賞につきまして、私をご推薦・ご選
考頂きました方々に厚く御礼申し上げます。
 私は、昭和51年に徳島県工業試験場(現:徳島県立工業技術センター)に採用さ
れました。私の上司でありました阪井茂美科長に研究テーマの相談をしたところ、木、
木材に関係する研究をして下さいとのことでした。そこで、”南洋材の繊維傾斜につ
いて”、”ほぞの接合性能について”をテーマとしてあげたところ、”ほぞの接合性
能について”がよいということになり、以来、木製品、家具の製品性能に関する研究、
普及を行ってきました。また、昭和57年より、「木質材料の可塑化による変形加工
技術に関する研究」を行いました。この研究は、徳島県工業試験場が徳島大学、業界
と行うはじめての本格的共同研究であり、科を挙げてこの研究に取り組み、マイク
ロ波を利用した曲げ木を用いた椅子の製品化により技術の普及を行いました。
 次に、学会との関係では、共同研究の結果、マイクロ波を利用した曲げ木材の強度、
曲げ木を使った椅子の強度解析を木材学会で発表しましたが、当時それ以外で木材学
会での研究発表を思うようにできませんでした。こうしたなかで、島根大学の先生を
中心に平成元年に日本木材学会中国・四国支部が設立されました。設立にご尽力され
た先生方のご苦労、事情もわからないまま、第2回の大会より参加させて頂き、平成
3年、第3回大会から最近まで断続的に参加、研究発表をさせていただいております。
内容は、ほとんどが家具・建具の製品性能についてのものです。今回の賞はこうした
取り組みについても評価して頂いたものと思います。
 研究については実験的製品試験が多かったため、もう少し理論的な研究ができなか
ったかと、反省しておりますが、木工、家具の製品性能に関する研究を33年間継続
することができたのは、ご指導頂いた地域の研究機関の皆様、木工製品の産地という
環境の中で、一緒に試験を行ってきた関係業界の多くの方々のご支援のおかげと思い
ますので、改めて支えていただいた方に心より御礼申し上げます。
 最後に思い出ですが、徳島県に採用され間もないころ、たまたま、出身の北大、故
澤田稔先生の教室に伺った時に、ご自分の教室からは家具の研究者になるものが多い
と、木材学会の先輩の方に、先生から私を紹介して頂いたのを覚えております。その
ときは実感がありませんでしたが、この賞をいただき、学会から家具の研究者として
認めていただいたものと思い、大変うれしく思います。今後は、さらに研究の成果を
地域の木工・家具の業界に普及していきたいと思います。

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◆第18回日本木材学会地域学術振興賞
『木材強度研究による学術振興と富山地域の木材関連産業活性化への貢献』
                中谷 浩(富山県農林水産総合技術センター)

 このたび「木材強度研究による学術振興と富山地域の木材産業活性化への貢献」に
より第18回日本木材学会地域学術振興賞をいただくことができました。これまで、ご
指導、ご支援いただいた皆様に厚くお礼申し上げます。
 富山地域は気候的には多雪地域であること、木材産業としては北洋材の加工基地と
して特徴づけられます。県産スギ材の生産量は僅かなのに、木材試験場という木材専
門の研究機関が存在してきたのは北洋材に依拠しています。
 研究の基盤としては、木材強度を中心に進めてきました。カラマツ、エゾマツ、ア
カマツといった北洋材や県産スギ材の実大強度性能評価を長く行ってきました。また、
富山には重い湿雪がスギの樹冠に着雪して幹が折れる冠雪害という林業被害が頻繁に
起きています。林業試験場の研究員と共同で冠雪害の発生機構の力学的な解析にも取
り組めました。この課題は、林業分野の課題ではありましたが、進める中でスギ材の
材質や強度性能の樹幹内分布を明らかにする等、スギ樹幹内の分析にもつながりまし
た。
 また、富山には伝統工法住宅に関わる技術資産が豊富であり、大工養成学校の富山
国際職芸学院や富山大学などと伝統的な住宅工法の解体調査や接合実験、壁試験など
の仕事をする機会にも恵まれました。木材強度という限られた分野であっても、地域
には地域の課題があり、様々な研究課題があることを実感できました。また、林業研
究機関、伝統工法関係者、富山大学、また金沢工大や福井大学など多くの方と一緒に
仕事をする機会にも恵まれました。
 富山県は木材産業が盛んということもあり、地域企業に対する産業支援の役割は木
材研究所の主要な課題となっています。特に、地域的に住宅メーカーや工務店、北洋
材関連企業が多いこともあり、木材強度性能に関わる相談、試験が非常に多く、共同
研究も行っています。また木材研究所には、木材研究所の積極的な利用を目的に地域
の木材関連企業約70社が参加する振興協議会が作られており、研究所と連携して年6
回の講演会や視察など積極的に活動しています。H19年の中部支部大会では地域の企
業からの発表や展示など、振興協議会の企業の積極的な協力がありました。このよう
な木材研究所の取り組んできた地域企業との積極的な連携が、今回の受賞でも評価さ
れたものと考えています。木材学会が地域の企業にも知られ意識されること、裾野を
広げることが、今後の木材学会の発展にも大事なことだと考えています。
 今、北洋材業界は輸出税問題により、大きな変革期を迎えています。難しい時代で
はありますが、今後とも地域木材産業の発展にお役にたてるよう取り組んでいきたい
と思います。

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◆第11回 日本木材学会技術賞
『国産材を用いた木質I形梁の製造技術・評価手法・利用技術の開発』
                   大橋 義コ(北海道立林産試験場)
	                 松本 和茂(北海道立林産試験場) 	
	                 戸田 正彦(北海道立林産試験場)
	
 この度は,私共の開発技術に技術賞をいただき,誠にありがとうございました。共
同開発者を代表して御礼申し上げます。
 受賞対象となりました本技術は,国産材料を用いた木質I形梁の実用化を目的として,
I形梁に適した製造技術・評価手法・利用技術を開発したものです。これらの技術開発
を進めるに至った背景として,梁せいの大きな床根太製材を多用する枠組壁工法では,
輸入製材の品質低下とともに床組に関わる瑕疵の防止対策が求められていたこと,梁
せい方向の乾燥収縮量が少ない木質I形梁へのニーズが高まっていたことが挙げられま
す。しかし,欧米では構造材料として広く利用されている木質I形梁も,国内では研究
事例や技術蓄積が極めて少なく,実用化には日本の諸条件に則した製造から施工まで
の様々な技術開発が必要でした。
そこで,建築業界や林産業界の方々からご協力いただきながら,以下の技術開発に取
り組みました。すなわち,汎用加工設備をベースとした低コストな製造システムの開
発,簡便かつ確実な接着剤塗布方法の発明,日本の使用環境や建築基準法に対応した
実務的な性能評価手法の確立,I形梁に適した長期たわみ設計式の提案,施工性に優れ
た専用接合金物の開発,構造材料および構造体としての様々な性能評価,日本の住宅
工法と慣習に対応した施工マニュアルの作成などに取り組みました。なお,これらの
研究成果の一部は特許取得,木材学会ポスター賞と論文賞受賞につながり,大きな励
みとなりました。
これらの成果をもとに,企業への技術移転を進めた結果,建築基準法第37条の新規木
質軸材料として国内初の国土交通大臣認定を取得できました。本技術はさらに2社の
製品化にも活用され,現在,大臣認定の申請を進めているところです。今後の国産I
形梁の利用拡大と国産材の需要拡大につながることを願っています。
なお,本技術開発にあたり,北海道大学の平井卓郎教授,日本住宅・木材センターの
鴛海四郎氏,森林総合研究所フェローの神谷文夫博士,北海道内の建築業界の諸先輩
方,職場の先輩や同僚など,たくさんの方々から多大なご支援とご指導をいただきま
した。皆様に心から感謝申し上げます。


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学術情報をぜひご覧ください。
◎和文誌:木材学会誌 電子ジャーナル版
    http://www.jstage.jst.go.jp/browse/jwrs/-char/ja/

◎欧文誌: Journal of Wood Science 電子ジャーナル版
    http://www.springerlink.com/content/1611-4663/
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冊子版「ウッディエンス」
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